大学受験にスタディサプリを活用するのは常識になってきました。では大学の授業はどうでしょうか?この記事では、大学の授業の一部もスタディサプリのようなオンデマンド型教材に置き換わるという話をします。
- システムインテグレーターに10年以上勤務
- 現在、大学職員(ITエンジニア職)
- 教員、学生からオンライン授業の質問や相談を日々受けている
- ハイブリッド授業、ハイフレックス授業に対応
- Zoom、Meet、Google Classroomなどの利用支援
- 講師役として学内研修のオンデマンド動画教材も作成
大学の授業はスタディサプリに置き換えられるか?
スタディサプリは、これまで高い授業料を払わないと聞けなかった有名進学塾のスター講師の良質な授業をスマホで「いつでも」「かんたんに」「繰り返し」学べるメリットがあります。
では、日本の大学の授業はスタディサプリのようなオンデマンド教材に置き換わるのでしょうか?私は大学の授業もおおいにオンデマンド教材に置き換わっていくと考えています。
大学の授業は高度だから置き換わらないよね。
一般教養や基礎的な授業はどうですか?
専門的な授業はニーズが少ないから動画教材を作っても観たい人自体が少ないんじゃない?
動画コンテンツになれば流通対象は全国の大学生。
その分野のスター教授よりおもしろく教えている自信、ありますか?
授業形態の分類(現在)
2020年〜2021年にかけて新型コロナウイルス感染症予防のため、大学の授業形態は大きく変化しました。現時点の授業形態は4つに分類できると私は考えています。「対面かオンラインか」「教える行為と学びが同期か非同期か」という2つの切り口で分類します。
パターン① 従来の教室型(対面・同期)
対面型で、かつ「教員が教える行為」と「学生の学ぶ」が同時に起きる同期型というのは、まさに教室で行われてきた従来の教室型の学習です。また、実験や実習形式の授業もこのタイプに分類できます。
パターン② リアルタイムオンライン授業(オンライン・同期)
一方、2020年以降に新型コロナウイルス感染症予防のために急激に拡大した授業形式がこの「リアルタイムオンライン授業」です。また、一部の学生が対面参加し、残りの学生がオンラインで参加するハイフレックス型の授業もこれに分類します。
パターン③ オンデマンド授業(オンライン・非同期)
あらかじめ収録された授業を学生が好きなタイミングでオンラインから学ぶ形式がオンデマンド授業です。つまり「教員が教える行為」と「学生の学び」が同時ではない(非同期な)タイプの授業です。
パターン④ プロジェクト型/研究室型(対面・非同期)
最後に、対面型でありながら、「教える行為」と「学生の学び」が同時ではないタイプとしてプロジェクト型の学習や研究室、社会に出て学ぶタイプの授業があります。
教室では学習の方向性を示したり、研究テーマに沿ってレビューすべき先行研究を示したり、エスノグラフィを薦めたりします。これが教える行為にあたります。一方、実際に学生が学ぶのは教室ではなく、それらを実行したタイミングというタイプの授業です。
授業形態の分類(将来)
ここまで2021年時点の授業の形態について「対面かオンラインか」「教える行為と学びが同期か非同期か」という2つの切り口で4つに分類してきました。
では、2021年以降はどのように変化していくことが予想されるかについて解説します。私は今後3つの変化が起こると考えています。1つずつ順を追って解説します。
予想される変化① オンデマンド授業の拡大
予想される1つ目の変化は「オンデマンド授業の拡大」です。その理由は、多くの学生がオンデマンド授業に高い満足度を示しているためで、アフターコロナにおいてもオンデマンド授業へのニーズが高いことが予想されます。
例えば、2020年に実施された関西大学の学生への大規模アンケート『遠隔授業に関するアンケート』(回答数12,655件)が参考になります。大学入学直後から全面的なオンライン授業が展開されたことで、友人を作る機会がなかった1年生は授業形態を問わず総じて満足度が低いのですが、2年生以上はオンデマンド授業に51.8%が満足を示しています。
注目すべき点は、2020年の調査であるという点です。2020年はオンデマンド授業・オンライン授業が急遽決定し大急ぎで作ったコンテンツであると予想されます。多くの教員は「前もって授業準備ができれば、さらに質の高いコンテンツが作れた」と考えているのではないでしょうか。
つまり、今後、オンデマンドを前提としてしっかりとデザインされた教育コンテンツ、オンデマンド授業のための機材・動画編集がともなえば、さらに高い満足度が得られることが期待でき、学生側のニーズとマッチすることでオンデマンド授業は急激に拡大していくことが予想できるのです。
当初は自大学の教員が出演するオンデマンド授業教材が作成されるでしょう。これが徐々に「理解度が高く、満足度も高い有名講師が話す教育コンテンツを使おう」という流れになるでしょう。その方が学生満足度が高まり、費用面でもメリットがあるためです。
つまり、オンデマンド授業の領域で生き残れるのは各専門分野におけるスーパー講師ということになっていくのではないでしょうか?
予想される変化② オンデマンド授業への抵抗
オンデマンド授業が急激に拡大すると、続いて発生する変化は「オンデマンド授業への抵抗」です。これにはいくつかの理由があります。
1つ目の理由として費用が挙げられます。デザインされたオンデマンド授業の動画コンテンツを用意するには一定の費用が必要になります。収録機材、動画編集、動画再生用のプラットフォームなどです。日本の約4割の私立大学は定員割れを起こしており、この投資ができない大学が出てくるでしょう。
2つ目の理由として「授業は対面でなければ」という漠然とした抵抗です。対面授業の方が学習効果が高いというデータを示すわけでもなく感覚的に「オンデマンド授業よりオンライン授業、できることなら対面授業が良い」と主張する大学が現れることが予想されます。
「オンラインで受講したい」という学生側のニーズに応えるために、これら一部の大学は「オンデマンド授業は提供しないが、学生と対話の機会があるリアルタイムオンライン授業を引き続き提供する」という判断をする可能性があります。
予想される変化③ オンデマンド授業を補完する授業
最後に予想される変化は「オンデマンド授業についていけない学生をケアする授業、サポートの提供」です。オンデマンド授業は自分のペースで学習できるメリットがある反面、自律的に学習ペースを作り出せない、学習習慣が確立していない学生を置いていってしまうデメリットがあります。
そこで、オンデマンド授業を補完するような役割が大学側に求められるのではないでしょうか。これまで対面授業をしていた教員の仕事はこのようなケアやサポートへとシフトしていくことが予想されます。
教員の生き残り戦略
では今後、現在の大学教員の役割はどのように変化していくのでしょうか。すこし過激な表現になってしまいますが「大学教員の生き残り戦略」について考えてみました。
※なお、大学教員には教育者以外に研究者としての役割もありますが、ここでは教育者としての生き残り戦略に限定して予想していきます。
① スーパー講師になる
オンデマンド授業の領域で生き残るためには、長期的には「スーパー講師」を目指す必要があります。しばらくは自大学でオンデマンド授業コンテンツを収録する傾向にあると考えられます。しかし、しばらくすると大学間で提携が進みコンテンツの相互流通が始まるでしょう。
オンデマンド授業はストック型のビジネスと言い換えることができるため、オンデマンド授業コンテンツの大学間相互流通が始まると視聴学生のパイに対して必要な講師数はすくなくなります。
その結果、生き残れるのは各専門分野のスーパー講師だけという構図が生まれてくることが予想されます。オンデマンド授業の領域で生き残るためには満足度が高く、学習効果の高い教育コンテンツを提供できる教員である必要がありそうです。
② ファシリテーター/学習サポーターになる
一部の教員はオンデマンド授業の解説をしたり、議論を通じて学習を促進したり、学習習慣のない学生のケアやサポートをするファシリテーターや学習サポーターのような役割を果たす戦略で生き残りを目指すことができるのではないでしょうか。
いかに有名大学のスーパー講師であろうと、受講者ごとに異なるレベルに合わせたコンテンツを用意することはできません。その溝を埋める役割も期待されるでしょう。
③ Youtuber系教員になる
最後に、オンデマンド授業の教育コンテンツが相互流通してもすべての授業がオンデマンド化されるわけではありません。つまり、リアルタイムオンライン授業も一定数は残るはずです。この領域で生き残るためには2020年のように突貫工事のオンライン授業や課題だけを出して終わりにするような授業では高い満足度は得られません。
配信用のカメラやマイク機材を使いこなし、リアルタイムならではの学生との相互のやりとりがある授業ができるYoutuberのような教員を目指す必要があるでしょう。
まとめ
この記事では、大学において2021年以降にオンデマンド授業が拡大するという予想を軸に、その結果として大学教員の姿がどのように変化していくのかについて考えてみました。
2020年の大学へのアンケートでオンデマンド授業は高い満足度を示しており、対面授業が再開された後も一般教養や基礎科目においてはオンデマンド授業にニーズがあるのではないかと予想されます。その結果、これまで対面授業だけやってきた教員は以下のいずれかを目指すことになると予想しました。
- オンデマンドコンテンツが大学間で相互流通しても勝ち残れるスーパー講師
- オンデマンドコンテンツを使って学生間で議論させるファシリテーターや学生の学習サポーター
- リアルタイムオンライン授業ならではの相互にやりとりのあるYoutuberのような教員
これまで長い間、変化のすくなかった大学における授業の形態が変化することで、より効率的な学習体験がより多くの教育機関に展開されることを祈っています。
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