ITストラテジストは毎年7,000名以上が受験する情報処理推進機構(以下、IPA)の試験区分です。IPAによるとITストラテジストの役割は「事業戦略を策定し、…(中略)…情報システム戦略と全体システム化計画を策定して…」とかなりレベルの高い役割であると定義されていています。
TACやITECなど対策講座の本ではなく、「ITストラテジスト合格を目指すなら知っておきたい知識を身につけるための本」を5つご紹介します。
ITストラテジストとは
まずは、IPAがITストラテジスト試験の合格者に何を求めているのかを確認しましょう。IPAの公式WEBサイトには次のとおり定義されています。少しカタイ書き方ですが、あとでまとめるので安心してください。今はキーワード(マーカー部分)だけさらっと見てください。
対象者像
IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 WEBサイト(https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/st.html)
高度IT人材として確立した専門分野をもち、企業の経営戦略に基づいて、ビジネスモデルや企業活動における特定のプロセスについて、情報技術(IT)を活用して事業を改革・高度化・最適化するための基本戦略を策定・提案・推進する者。(以下略)
業務と役割
IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 WEBサイト(https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/st.html)
ITを活用した事業革新、業務改革、革新的製品・サービス開発を企画・推進又は支援する業務に従事し、次の役割を主導的に果たすとともに、下位者を指導する。
(1) 業種ごとの事業特性を踏まえて、経営戦略の実現に向けたITを活用した事業戦略を策定し、実施結果を評価する。
(2) 業種ごとの事業特性を踏まえて、事業戦略の実現に向けた情報システム戦略と全体システム化計画を策定し、実施結果を評価する。
(3) 情報システム戦略の実現に向けて、個別システム化構想・計画を策定し、実施結果を評価する。
(4) 情報システム戦略の実現に向けて、事業ごとの前提や制約を考慮して、複数の個別案件からなる改革プログラムの実行を管理する。(以下略)
いろいろと難しく書かれていますが、ITストラテジストの役割には「経営戦略を実現するための 事業戦略 > 情報システム戦略と全体システム化計画 > 個別システム化計画 をそれぞれ策定し、実施結果の評価すること」が求められています。これを図式化するとこんな感じになります。ずいぶんと広く、高度であるように感じますね。でも安心してください。次の章でこの範囲のうち、どの部分から出題されるのかを示します。
5年間の過去問の傾向を分析(午後2)
では、5年分のITストラテジストの過去問(午後2)の出題内容を見てみましょう。先述の「ITストラテジストの役割範囲」のどの部分から出題されているのかに着目しながら見ていくと、次の4つの傾向があることがわかります。
- 個別システム化計画からの出題が多い(事業戦略までは求められにくい)
- 近年(平成30年、令和元年)は事業戦略、情報システム戦略まで求められている
- 近年(平成30年、令和元年)は新しい技術(音声認識、AI、API等)の活用を求められている
- すべての役割のうち、戦略や計画の「策定」が求められ、「事後評価」を求める出題は少ない
試験実施年 | 問題の概要 | ITストラテジストの 役割 | 策定 | 事後 評価 |
---|---|---|---|---|
平成27年 問1 | グローバル事業における業務機能の改善 | 情報システム戦略 全体システム化計画 複数案件の改革 | ○ | |
平成27年 問2 | 緊急性の高いシステム化案件の優先順位と スケジュール策定 | 個別システム化計画 | ○ | |
平成28年 問1 | ビッグデータを活用した新サービスの提案 | 個別システム化計画 | ○ | |
平成28年 問2 | IT導入の企画における業務分析 | 個別システム化計画 | ○ | |
平成29年 問1 | IT導入の企画における投資効果 | 個別システム化計画 | ○ | |
平成29年 問2 | システムの目標達成の評価 | 個別システム化計画 | ○ | ○ |
平成30年 問1 | 事業目標達成のためのIT戦略 | 情報システム戦略 | ○ | |
平成30年 問2 | 新しい技術/機器と業務システムを連携した 新しいサービス企画 | 情報システム戦略 全体システム化計画 | ○ | |
令和元年 問1 | 事業課題解決のための業務プロセスへの デジタル技術活用 | 情報システム戦略 複数案件の改革 | ○ | |
令和元年 問2 | IT活用したビジネスモデル策定の支援 | 事業戦略 情報システム戦略 全体システム化計画 | ○ |
傾向① 個別システムからの出題が多い
IPAが定義する「ITストラテジストの役割と業務」では、事業戦略や情報システム戦略の策定が求められていて、それの経験がないと合格は難しいと感じる方もいるかもしれませんが、過去問5年分を見る限り、個別システム化計画の策定を求める傾向が強いことがわかります。
事業戦略や情報システム戦略の策定に関する知識も必要ですが、まずは個別システム化計画に関する知識を習得することの優先順位をあげるべきです。
傾向② 近年は事業戦略や情報システム戦略が求められる
一方、個別システム化計画よりも上位にあたる事業戦略や情報システム戦略の策定を求める出題が平成30年、令和元年あたりから増えている傾向もあります。例えば、令和元年の問2では「あなたはどのようなビジネスモデルを策定したか」という高いレイヤーの回答を求められます。
つまり、個別システム化計画のための対策を優先させつつ、事業戦略や情報システム戦略の対策もやっておくことで合格率を高めることができると言えます。
傾向③ 近年は新しい技術の活用事例を求められる
平成30年、令和元年の出題からわかることは、新しい情報技術や情報機器を使った事例の回答を求めるケースが増えているということです。新しい情報技術/情報機器の例として問題文中から「音声認識やAI」「IoT機器」といったことが汲み取れます。
2019年あたりからDX(デジタルトランスフォーメーション)というバズワードも出てきており、こういった新しい情報技術に関する知識や他社事例を本から学んでおくことで、未経験でも回答できそうです。
傾向④ 戦略や計画の「策定」が求められ、「事後評価」はほぼ出題されない
最後に、ITストラテジストの役割と業務には、「各戦略/各計画の策定と、その実施結果の評価」が求められていますが、出題されるのは「策定」からがほとんどでした。もちろん、策定した戦略/計画に対する経営層や事業部門からの評価を問う出題は頻出しますが、「計画を実施した結果に対する評価」となると、私が確認した限りでは、過去問5年分で10問中、1問だけでした。
ITストラテジスト午後2対策のおすすめ本
5年分のITストラテジストの過去問(午後2)の出題傾向の4つのポイントに沿って、ITストラテジストに合格した経験からおすすめできる5つの本をご紹介します。これらを読み解くことで、ITストラテジストの役割や業務は未経験でも午後2に求められる知識を習得できるはずです。
おすすめ本① 個別システム化計画の策定が基本!ここをしっかり押さえる!
まずは、個別システム化計画について、その計画の流れをしっかりと学びましょう!この本はITストラテジストという試験区分ができた当時(その前身である上級システムアナリストの頃)から多くの受験者が受験記・合格記で紹介していました。私もそれを参考に、買ったのですが、これは間違いなく必読書と言えます。
多くの本が「経営戦略・事業戦略の立て方」「プロジェクト計画の立て方」といった守備範囲で書かれていますが、ご紹介する『~経営戦略の実効性を高める~ 情報システム計画の立て方・活かし方』はそれらをつなぐ内容になっています。つまり、「経営戦略や事業戦略をシステム計画に落とし込む」ところが丁寧に解説されているんです。午後2の論文で上位戦略から落とし込んだ計画であると述べられれば、説得力が格段にアップします。
おすすめ本② 業務知識の幅に心配がある方のみ!広く浅くカバーしよう!
もしも、あなたが担当したことのある領域が特殊な領域に偏っている場合には、広く浅く業務知識を得ておくことで本番の論文で活用できることがあります。特にITストラテジストは事業戦略にからめて複数のシステムにまたがる問題を解決するような事例を求められることがあるためです。
『ITエンジニアのための業務知識がわかる本』は上記のようなニーズにピッタリです。また、購入者は電子書籍をダウンロードできるため、購入するならKindle版ではなく、単行本をおすすめします。
おすすめ本③ 近年の上位レイヤー(事業戦略策定)からの出題に備えよう!
近年の出題傾向を見ると、「事業戦略策定」や「情報システム戦略策定」を求められることがわかります。ITエンジニアやシステムコンサルタントでも、ビジネスモデルを作った経験のある方はかなりの数に絞られるのではないかと思われます。
そこを補うためにおすすめしたいのは『ゼロからつくるビジネスモデル』です。この本では、多くのビジネスモデルの事例を示しつつ、事例の共通点や複眼的な切り口でまとめられています。また、重要な点は図解されており非常にわかりやすい内容になっています。
おすすめ本④ 新しい情報技術に対応するためのDX初学者向け本!
近年の「新しい情報技術/情報機器を活用した事例」を求める傾向に対応するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)関連のおすすめ本を2冊ご紹介します。
初学者向けにはこの『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』がおすすめです。基本的な内容が見開き1ページにまとめられており、図解されていて非常にわかりやすい構成です。そもそもDXとはどのようなもので、具体的な例を示しながら、導入の進め方まで言及されています。表面的な内容にはなってしまいますが、DXの初学者を対象にしたわかりやすい本と言えます。
おすすめ本⑤ DXの本質に切り込む!改革の課題ポイントと実例を知ろう
DX関連のもう1冊は『DXの真髄 日本企業が変革すべき21の習慣病』です。本書で取り扱われているのは、表面的なDX(業務への技術活用)ではなく、業務改革に伴う人と組織に変革を求める本質的なDXに関する課題ポイントと実企業名を上げた事例です。
午後2対策としては、「どのような点を工夫したのか」を問われるケースが多いため、DXにおいて実例としてどのような課題があるのかを把握するのに最適な内容です。
まとめ
いかがだったでしょうか?この記事では、未経験、あるいはそれに近い方がITストラテジスト試験の合格を目指す場合に、知っておきたい知識が身につく本を5冊ご紹介しました。
おすすめの5冊はITストラテジストの過去5年分の過去問からわかった傾向を元にしています。傾向は以下の内容です。
- 個別システム化計画からの出題が多い(事業戦略までは求められにくい)
- 近年(平成30年、令和元年)は事業戦略、情報システム戦略まで求められている
- 近年(平成30年、令和元年)は新しい技術(音声認識、AI、API等)の活用を求められている
- すべての役割のうち、戦略や計画の「策定」が求められ、「事後評価」を求める出題は少ない
これら4つの傾向をカバーするためのおすすめ書籍はこの5冊でした。
傾向1, 4「個別システム化計画を中心に出題される」 への対応
『~経営戦略の実効性を高める~ 情報システム計画の立て方・活かし方』
『ITエンジニアのための業務知識がわかる本』
傾向2「事業戦略/情報システム戦略」への対応
『ゼロからつくるビジネスモデル』
傾向3「新しい技術」への対応
『未来IT図解 これからのDX デジタルトランスフォーメーション』
『DXの真髄 日本企業が変革すべき21の習慣病』
なお、ITストラテジストに合格した経験から対策全般をまとめた記事もありますので、ぜひ参考にしてください。
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